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第39話 旅先の夜

ผู้เขียน: 板野かな
last update วันที่เผยแพร่: 2026-10-02 18:00:08

 低い声が、遠くから聞こえた。

「麗香。着くぞ」

「……はい」

 返事をしてから、麗香はゆっくりと目を開いた。

 最初に見えたのは、見慣れない布地だった。

 濃い色の着物。

 その向こうに、窓から差し込む初夏の光。

「……」

 そして。

 自分の頬が、朔の肩へ乗っている。

「――っ」

 麗香は勢いよく身体を起こした。

「も、申し訳ございません!」

「別に構わん」

「起こしてくださればよろしかったのに……」

「よく寝ていたからな」

 朔は何でもないことのように答える。

 麗香は熱くなった頬を隠すように窓へ顔を向けた。

 いつの間にか、景色はすっかり変わっている。

 広々とした田畑は少なくなり、窓の向こうには深い緑をまとった山々が迫っていた。汽車は山肌を縫うように進み、時折、木立
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     低い声が、遠くから聞こえた。「麗香。着くぞ」「……はい」 返事をしてから、麗香はゆっくりと目を開いた。 最初に見えたのは、見慣れない布地だった。 濃い色の着物。 その向こうに、窓から差し込む初夏の光。「……」 そして。 自分の頬が、朔の肩へ乗っている。「――っ」 麗香は勢いよく身体を起こした。「も、申し訳ございません!」「別に構わん」「起こしてくださればよろしかったのに……」「よく寝ていたからな」 朔は何でもないことのように答える。 麗香は熱くなった頬を隠すように窓へ顔を向けた。 いつの間にか、景色はすっかり変わっている。 広々とした田畑は少なくなり、窓の向こうには深い緑をまとった山々が迫っていた。汽車は山肌を縫うように進み、時折、木立の隙間から川の流れが銀色に光って見える。「よく眠れたかい?」 突然、通路側から声がした。 振り返ると、清雅が実に楽しそうな顔をしていた。「……はい」「それはよかった」 やがて汽笛が長く鳴った。 速度が落ちていく。 目的地が近いのだ。◇ 駅を降りると、空気の匂いが違った。「……まあ」 麗香は思わず声を漏らした。 山から降りてくる風に、湿った土と青葉の香りが混じっている。 帝都にも庭園や木々はあるが、ここでは緑の方が人の暮らしを包んでいるようだった。 小さな駅舎の向こうには山並みが連なり、その麓に瓦屋根の家々が並んでいる。「お荷物をお運び致します」 同行してきた女中頭の志乃と若い家人が、すでに荷物をまとめている。 先方を怯えさせぬよう、供は必要最低限にしていた

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